きずなメール・プロジェクト 代表のblog

顔と名前を出す人生です。

「子どもの最善の利益」に国連の執念を見たような気がした話。

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国連「子どもの権利委員会・一般的意見14号:自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項)」の日本語訳をダウンロードしたら、20ページもあった。

「子どもの権利」というと、「子どもが好き勝手やるの?」的なイメージの人は少なくないようです。かつては僕もそうでしたが、中身を知ると、むしろ大人も楽になる考え方だとわかりました。

 

このようなわけで僕は、「子どもの権利条約」について学ぶ機会には積極的です。先日も「子どもの権利条約 基礎講座」に参加して、むちゃくちゃ面白かったので、そのなかから2つだけ共有します。 


①「条約」は「憲法」より下だけど「法律」より上。

つまりこうです↓。

日本国憲法」>「子どもの権利条約」>関連する法律

にわかに信じがたいのでググると確かに、「憲法 条約 法律 優先」でGoogle先生がサジェストして来て、「つまり、憲法・条約・法律の順に優先されるということです。https://legalus.jp/others/laws_and_regulations/ed-1692と出てきます。‼‼‼‼

 

誰かが決めたわけではないけど、国際的な合意は今のところこの順番。改正児童福祉法や成育基本法の第1条に「児童の権利に関する条約に則り」と入ったのは、こういう理由もあるのかなと想像したり。

 

もうひとつ大事なこと。国とは同じではないにしても、自治体も「ローカルガバメントとして条約の実施主体」であることです。仕様書に「児童の権利に関する条約の精神に則る事業である」との一文を入れるために奮闘努力している弊団体のJKP(自治体協働パートナー)には、心強い後押し。


子どもの権利条約第3条(Convention on the Rights of the Child Article 3)「子どもの最善の利益」(the best interests of the child)

講師の荒牧重人先生は、「これを知ったときの感動は今も忘れない」とおっしゃっていました。僕も知ったときはとても驚いて、過去に2回ほどブログに書いています。

 

「子どもの権利条約」を子どもに説明しました。
「子どもの最善の利益」について

 

原文↓

Convention on the Rights of the Child Article 3

1. In all actions concerning children, whether undertaken by public or private social welfare institutions, courts of law, administrative authorities or legislative bodies, the best interests of the child shall be a primary consideration.


第3条

1 児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれかによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。

今回の講座で知ったのは、この第3条1に対して2013年、国連子どもの権利委員会が「子どもの権利委員会・一般的意見14号:自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項)」という長い名前の「見解」を出していること。日本語訳はこちらです。

 

第62会期(2013年1月14日~2月1日)

CRC/C/GC/14(2013年5月29日/原文英語〔PDF〕)

日本語訳:平野裕二〔日本語訳全文(PDF)〕

https://w.atwiki.jp/childrights/pages/236.html

 

この日本語訳をダウンロードしたら20ページもあって、ついで字数をカウントしたら2万7000字もありました。日本語の第3条1項は90字。90字を裏付けるための2万7000字です。

 

ひとまず通し読みしたら、早速こんな話が。

2.「子どもの最善の利益」の概念は新しいものではない。それどころか、この概念は条約以前から存在するものであり、1959 年の子どもの権利宣言(第2項)、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(第5条(b)および第 16 条第1項(d))、ならびに、諸地域文書ならびに多くの国内法および国際法にすでに掲げられていた。

歴史の中で淘汰されてきた、鍛え上げられたアイデアだということがわかります。

A.第3条第1項の文理分析  

 「文理分析」とは聞き慣れない言葉ですが、要は、第3条1項の(上の赤字部分)の一言一句について、「この語はこういう意味で使っています」「定義しています」といちいち説明しているのです。委員会の執念のようなものを感じます。それくらい大事な概念だとわかります。

 

多分、いい意味で本当に頭の良い人たちが、情熱を持って、蟻の這い出る隙もない鉄壁な理論武装をしたのだと思います。だとしたら、子育てや教育の拠り所として大いに信頼してよいと思います。アクションとしては、誰かの許可とお墨付きは不要で、お金を払う必要もなくて、ただ読んで納得したら、少しそうしてみるだけです。

 

* * *

  

「書き言葉」には、長い時間をかけて、理想を現実にする力があります。聖書やコーランなんかに「人を殺してはいけない」と書いてあって、それを多くの人が読むことで、「やっぱりいけないよな」と思う人が何百年もかかって少しずつ増えていって、さらにその周りの人々も「やっぱりいけないよな」と思うようになって、実際に僕らが生きている時代は、かつてより他人の暴力で亡くなる人が少ない社会になっています。

 

ならば子育てや教育の分野でも、拠り所にしていい「書き言葉」はないかと見渡すと、「子どもの権利条約」が一番フィットする気がします。

 

何しろ、「子どもの権利条約」の下地となる「人権」(この言葉も厳ついけど)思想は、文句を言う人は多いけどとても良くできているし、条約は国連に世界中の頭のいい人たちが集まって練りに練ってスキなく用意周到に作り上げられたもので、6つもの言語に翻訳されています。

 

さらにインターネットの時代は、特定の人が秘伝のように独占するのではなく、僕のような一般人も「原典」にスマホから一瞬で、無料でアクセスできます(通信量はかかるけど)。文字通り「誰にでも開かれて」います。

 

日本語訳(外務省)

「児童の権利に関する条約」全文

 

楽観しすぎかもしれないけど、この条約のことを知る人が増えることで、世界は確実に変わっていくと思うのです。実際に現在進行形で、少しずつ変わっていると思います。

 

単なる理屈だろう、と思う方もいるでしょう。でも人間は言葉を使って考えるので、最後はどうしても言葉に収斂していきます。だから「書き言葉」と、その向こうにある考え方(思想)を疎かにしないように、自分に言い聞かせる日々です。

 

秋ですね。

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「子どもの権利条約」に「愛」という言葉は1箇所だけ。

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必要があったので、改めて「子どもの権利条約」を通読しました。その備忘メモ。

 

* * *

 

・「子どもの権利条約」に「」という言葉は、前文に一箇所だけ。

(英文)
Recognizing that the child, for the full and harmonious development of his or her personality, should grow up in a family environment, in an atmosphere of happiness, love and understanding,

(和訳)
児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め、

 

・第20条の3「イスラム法のカファーラ」。イスラム教の養子縁組の仕組みらしい。初めて知った。  

(英文)
3. Such care could include, inter alia, foster placement, kafalah of Islamic law, adoption or if necessary placement in suitable institutions for the care of children. When considering solutions, due regard shall be paid to the desirability of continuity in a child's upbringing and to the child's ethnic, religious, cultural and linguistic background.

(和訳)

3 2の監護には、特に、里親委託、イスラム法の力ファーラ、養子縁組又は必要な場合には児童の監護のための適当な施設への収容を含むことができる。解決策の検討に当たっては、児童の養育において継続性が望ましいこと並びに児童の種族的、宗教的、文化的及び言語的な背景について、十分な考慮を払うものとする。

 

・この外務省訳は、「Parents」を「父母」と訳している。

 

・第42条~第45条は「国連・子どもの権利委員委員会」(Committee on the Rights of Children 略称CRC)についての取り決め。この条文が規程する仕組みが、世界および日本の子ども虐待防止に、間接的な効力を発揮している、と個人的には考えています。

第44条 
1 締約国は、(a)当該締約国についてこの条約が効力を生ずる時から2年以内に、(b)その後は5年ごとに、この条約において認められる権利の実現のためにとった措置及びこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を国際連合事務総長を通じて委員会に提出することを約束する。
2 この条の規定により行われる報告には、この条約に基づく義務の履行の程度に影響を及ぼす要因及び障害が存在する場合には、これらの要因及び障害を記載する。当該報告には、また、委員会が当該国における条約の実施について包括的に理解するために十分な情報を含める。

 

・第45条 「国際連合児童基金」。ユニセフのことだった。

 

・第54条 アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。

Article 54
The original of the present Convention, of which the Arabic, Chinese, English, French, Russian and Spanish texts are equally authentic, shall be deposited with the Secretary-General of the United Nations. In witness thereof the undersigned plenipotentiaries, being duly authorized thereto by their respective Governments, have signed the present Convention.

 

* * *

やはり1次情報にあたるのは大事ですね。以下出所です。

 

Convention on the Rights of the Child

www.ohchr.org
外務省が翻訳した全文

www.mofa.go.jp

PDFでダウンロードできます。

https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwjcgO2G0ZLsAhWSP3AKHRu-CYUQFjACegQIARAC&url=https%3A%2F%2Fwww.unicef.or.jp%2Flibrary%2Fpdf%2Fhaku10_04.pdf&usg=AOvVaw0lwMnDRyxREmVRdI-UynSU

 

関連記事はこちら。自分でも意外なほど、書いていました。

kizunamail.hatenablog.com

「編集者」と「NPO」について。

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「大島さんは経営者ですよね」といわれると、いまだに落ち着かないです。ですが「編集者」として、団体を「編集した」感覚はあります。実際に編集者だったのは2007年までですが、未だに「自分は編集者」という気持ちがあります。

 

この記事の目的は2つ。

・僕より後から生まれた人たちに、「編集」の面白さと可能性を伝えたい。
・今、きずなメール ・プロジェクトで働く人たちに、自分たちがどんな文脈(コンテクスト)の上にいるかを知ってもらいたい。

 

目次です。

 

  

①どういう本の編集者だったか。

「編集者」は「書籍編集者」(不定期刊行)と「雑誌編集者」(定期刊行)に大別できます(僕が現役だった頃は)。僕は「雑誌」の、しかも「競馬専門の月刊誌」という超ニッチな媒体の編集者として、30代を過ごしました(いわゆる「競馬新聞」とは異なります)。

 

媒体の名前は「競馬最強の法則」です。

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1991年創刊→2019年休刊。28年続いた。

競馬最強の法則 - Wikipedia 

この本のMissionは、「競馬で儲ける方法(「馬券術」といいます)」を紹介すること。だから編集者は毎週(競馬の開催は基本土日)、競馬をやります。自分のお金で。

 

業務命令ではなく、そうするのです。編集部には、「自分の身銭で試した馬券術を企画にするのが、この編集部の編集者」という無言の圧力がありました。今風にいうと、ユーザーファーストを貫くため、「当事者」あることに重きを置いていたのです。

 

例えば、自分で1万円投資して10万円になった馬券術を記事にするので、迫力が出ます。おかげで同誌は、「競馬月刊誌」というニッチな市場でトップリーダーでした。僕もそのことを誇りに感じるとともに、鼻にも掛けていた恥ずかしい過去でもあります。

 

週末に自分のお金でギャンブルをやることが「仕事」など、今なら確実に問題アリですが、僕は水が合ったようで、本当に毎週競馬ばかりしていました。

 

②「編集」とは?

僕はこの編集部で、「編集」の多くのことを学びました。「編集」の定義は人により様々ですが、僕とっては、「締め切りまでに、とにかく形にする」ことです。

 

何かを作るとき、ベストの条件や環境がそろうことはありません。必ず制約条件があります。予算と締め切りがその代表。手持ちの材料で締め切りまでに、いかに面白いものを作るか。

 

後にこの考え方は、文化人類学でいう「ブリコラージュ」(寄せ集めて自分で作る)に近いものだと知りました。

 

ヒット企画(記事)が生まれるプロセスは、不合理で不条理です。丁寧に仕込めばよい企画になるのは確かですが、時間かけて準備したけどまったく響かないとか、苦し紛れに3分で考えたような企画が売れたり、つまらなそうな企画が編集長がキャッチコピーを変えるだけで大化けしたり。謎に満ちています。

 

「面白いものは、制約の中で生まれてくる」ことを体感する日々でした。

 

③編集したら「きずなメール ・プロジェクト」になった。

起業を考えた2010年時の手持ちの材料は、妻が書いてくれた「胎児の成長を毎日紹介した原稿」のみ。予算ゼロ。締め切りは「貯金が尽きるまで」。


編集者は、「切り口」という考え方をします。同じトマトでも、タテに切るかヨコに切るかで見え方が変わります。僕は妻の妊娠を知ったとき、いつもの見慣れた風景の、見え方が変わりました。親という「切り口」に、突然晒されたからです。

 

晒されてすぐに、親は子育ての「当事者」だと気付きました。「当事者」として「編集」することに、多少の慣れはあります。

 

次に探したのが、僕ら家族も含めた”社会全体”に役立つ「切り口」。そして出会ったのが↓この本の中の「社会起業」と「NPO」でした。

 

「胎児の成長を毎日紹介した原稿」「子育ての当事者」「社会起業」「NPO」を編集したら、「NPO法人きずなメール ・プロジェクト」になった、という感じです。

 

④「編集」は「プラスサム」

この10年で、「編集者」も「編集」も大きく変わりました。


note の加藤貞顕さん。コルクの佐渡島庸平さん、wordsの竹村俊助さん。僕より後に生まれた方々が、10年前には想像もつかなかった形で、webを軸にしながら、それぞれに凄い仕事をしておられる。圧倒されるばかりです。

 

僕はベストセラーを出した経験もない、そもそも業界の隅っこにいた、今や年齢的にも微妙な「おじさん編集者」ですが、それでも「自分は編集者」という気持ちはなくならない。


ここまで書いて、今頃になって、ようやく、自分が伝えたいことが見えてきました。

 

ゲーム理論に「ゼロサム」「プラスサム」という考え方があります。誰かかが勝つと、誰かが負けるのが「ゼロサム」、両方勝つのが「プラスサム」。

 

「編集」では「プラスサム」が高確率で起こるのです。切り口を変えるだけで、奪い合う関係が、与えあう関係に変わることがある。これはとても面白いし、神秘です。イノベーションって、こういうことかと思います。

 

もうひとつ。悩んでいることがあってそれをどうにかしたい方は、自分でこっそり「編集者」になったことにして(笑)、その悩みをいろんな「切り口」で切ってみてください。欠乏感や不全感は、それ自体が「企画」になります。ひとりの人間の悩みごとは、社会全体、世界全体とつながっています。きずなメール ・プロジェクトが続いている限り、これは確信を持って言えます。

 

こんな感じで、少しでも役に立てれば幸いです。 

 

 

 

 

 

「請負」ではなく、「協働」のための契約へ。

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2017年、団体として初めて「協定」で契約を締結しました。相手方は基礎自治体岡山県奈義町です。

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これを機に、自治体との契約について、「委託契約ではなく、協定のような形の方が実情に則している」と考えるようになりました。

「委託契約」の中身のほとんどは「請負契約」であり、これだと発注者の下請けになってしまい、事業がコモディティ化するからです。簡単に目的を見失い、サービスを切り売りしてお金をもらう構造になってしまう。

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でも僕らは、サービスを切り売りしたいのではありません。自治体もNPOも、自分たちが属する共同体の公共の福祉を実現するために、互いに持てる社会資源を出し合っているのではないでしょうか。

僕が知る限り、この関係に適した考え方がNPOにおける「協働」であり、適切な契約の形は「協定」や「協働契約」です。 f:id:yukkiestar:20200820113050j:plain

「協定/協働契約」(ひとまず便宜上、こう表記します)は空論ではなく、団体では実際に、神奈川県相模原市とともにこれを実現しています。「さがみはら子育てきずなメール事業の実施に関する協定書」を締結し、目的を明確にして、事業を展開しています。

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実際には、この協働事業のきっかけを作ってくださった地元企業・相模原商事株式会社も含めた「3者協働」ですが、イメージを明確化するため、図では省略しています。

ameblo.jp
以下、協定書冒頭です。

さがみはら子育てきずなメール事業の実施に関する協定書」

 

相模原市(以下「市」という。)、特定非営利活動法人 きずなメール・プロジェクト(以下「実施団体」という。)及び相模原商事株式会社(以下「協賛企業」という。)は、子育て支援さがみはら子育てきずなメール事業」(以下「事業」という。)の実施に関して、次のとおり協定を締結する。

(目的)
第1条 この協定は、市、実施団体及び協賛企業(以下「三者」という。)が協働し、「さがみはら子育てきずなメール」を届けることで妊婦及び保護者を支援し、孤立や不安、産後うつ等を未然に防ぐために行う事業の、効果的な実施を図るために必要な事項を定めることを目的とする。

 

「協定/協働契約」の先進自治体である横浜市には、市民と市職員のための協働契約ハンドブック「AMPERSAND協働実践」があり、その中12ページで、委託と協働の違いを下記の通り整理しています。

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www.city.yokohama.lg.jp

繰り返しますが、自治体もNPOも、自分たちが属する共同体の公共の福祉を実現すべく、互いに持てる社会資源を出し合う関係です。僕らが提供できる社会資源が「きずなメール事業」。自治体との協働を志向するのは、住民にアクセスするインフラでありライフラインだからです。

 

これからは「きずなメール事業」のような「非接触の支援」の重要度は、さらに増します。事業の潜在力を100%発揮するためにも、「請負契約」から「協定/協働契約」に少しづつシフトして行こうと考えています。

 

自治体の方、ソーシャルセクターの方は、ご理解とご協力を、何卒お願い申し上げます。

 

(追記)

10年以上前に、ほぼ同じことを述べておられる方を見つけました。いつか来た道だったと知って感動。備忘として。 

「NPO等と行政の『協働契約(書)』の普及に向けて」市民優位の自治・協働政策?. 今瀬 政司((特活)市民活動情報センター 代表理事)

 

「非接触」な支援としての「テキストメッセージング」

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Covid-19により、児童福祉分野、医療分野でも「非接触」な支援が注目されています。僕は「テキストメッセージング」が、大きな可能性を拓くと考えています。


「テキストメッセージング」という語は、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターの精神科医・中嶋愛一郎先生に教えていただきました。日本ではこれから開拓される分野ですが、世界各地で試みられているようで、僕が情報を発信したら、関係者が情報を寄せてくださるようになりました(感謝)。それらを備忘として共有します。


sms4dads 
https://www.sms4dads.com/

f:id:yukkiestar:20200821144937p:plain多忙な父親に向けてショートメール(SMS)でメッセージを送るので"sms4dads"。オーストラリア・ニューキャッスル大学の研究です。僕もブログで紹介させていただきました。 

textMATCH
https://healthybabies.org.nz/sign-up-to-textmatch/

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 ニュージーランドのサービス。2014年に公衆衛生プログラムの取り組みとして始まりました。妊娠期から生後21ヶ月まで。5ヶ国語で、なんと日本語もある!ということで登録しようとしましたが、海外からのショートメールは受け取れないようです涙。

 

text4baby
https://www.text4baby.org/

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アメリカのサービス。妊娠中から1歳誕生日まで、週3回、無料テキストが送られてきます。テキストは専門家が作っています。

Women who text BABY (or BEBE for Spanish) to 511411 receive free text messages three times per week, timed to their due date or their baby's birth date, through pregnancy and up until the baby's first birthday. Text4baby sends personalized messages directly to you, and the texts have information you can trust because they are developed by experts from all over the country.


妊娠中から赤ちゃんの1歳の誕生日まで、週3回無料のテキストメッセージを受け取ります。Text4babyはパーソナライズされたメッセージをあなたに直接送ります。テキストは全国の専門家によって開発されているため、信頼できる情報です。

こちらにメッセージの項目がありますが、"Family Violence" (家庭内暴力)、Substance Abuse(薬物濫用)など、切実さが感じれます。 

Messages on Critical Issues

Prenatal Care
Safe sleep
Immunization
Breastfeeding (Breastfeeding Content Fact Sheet)
Nutrition
Oral Health
Immunization
Family Violence
Physical Activity
Safety
Injury Prevention
Mental Health
Substance Abuse
Developmental Milestones

アプリがあるのでDownloadしようとしましたが、Regionが違うので不可でした。残念。


Enhancing reciprocal partner support to prevent perinatal depression and anxiety: a Delphi consensus study

産後うつと不安を予防するための相互パートナーサポートの強化:Delphiコンセンサス研究


こちらは「テキストメッセージング」そのものではなく、「テキスト」(原稿)の作り方の情報として。

専門家が繰り返しレビューを実施することで質を担保する「Delphi Method」という方法があります。これを用いて、産後うつを予防する研究の論文です。

www.ncbi.nlm.nih.gov 

Kizunamail きずなメール

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「きずなメール」も、安心を言葉にのせて孤育てを防ぐための「テキストメッセージング」です。基本となるテキスト(原稿)は、専門家がレビューを繰り返して作られています。現在は主に自治体事業として展開していて、定量的な効果測定の研究も少しずつ始まっています。

 

* * *

 

きずなメールを始めた10年前は、「メルマガですね」とよく言われました。でも僕は「"メルマガ"という言葉遣いがそのものが、可能性を限定するから、少なくとも僕はそのような言葉遣いでは捉えないようにしよう」と自分に言い聞かせてきました。

 

僕は歌人奥村晃作先生のファンで、一度だけお会いしたことがあります。そのときに頂いたのが、下記の言葉です。 

心が動いたときを表現する。人間、いつも変化している。日々感動している。それを忘れているだけ。毎日変化して、毎日新しい。富士山をみて感動した、そういう大きいのもいいけど、例えば石ころを見て、心が動いた、そこに言葉をあわせていく。言葉が合えば、石ころでも凄いんですよ。 

きずなメールは「テキストメッセージング」という視点を得て、”言葉が合って”来たように感じています。ということで皆さん、頑張っていきましょーーー。

公衆衛生学と「言葉がキレイになる。」

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新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、公衆衛生学が颯爽と現れました。おかげで今、力強く、手洗い習慣が浸透しています。「少しくらい手を洗わなくても平気」に戻ることはないでしょう。

手がキレイになっていくように、言葉もキレイになっていく、と僕は考えています。好む好まないに関わらず、社会全体が、天皇陛下のような言葉遣いの方向に振れていくのです。

インターネットが現れた頃、人と人はつながりやすくなるといわれました。でも実際には、”違い”が目立つようになりました。近くの仲間だと思っていた人たちは、自分と違う考え方や価値観を持っていることがはっきりしてきた。インターネットは、遠くにいる人の共通点とともに、近くにいる人との相違点も明らかにしました。

人は「違い」に対して、面白さと恐さを同時に感じます。恐さが勝ると、自分を守るために身構えます。相手も同じだと、争いになります。

争わないためには、相手に常に、「私は敵ではないですよーー」というメッセージを送る必要があります。これをパターン化して使いやすくしたものが「礼儀」であり、丁寧な言葉遣いです。

 

言葉がキレイになるのは、手洗いと同じ、文明化のプロセス。だから不可逆(元には戻れないこと)。最近目立つようになってきた「ポリティカルコレクトネスト」(PC)も、このプロセスのひとつの現れではないでしょうか。

 

「堅苦しくない言葉遣いが親密さの現れ」と思っている方には、息苦しいかもしれません。でも僕はそれ自体、思い込みのような気がしています。言葉はそもそも、いつの時代もどんどん変化していて、今はインターネットにより変化が可視化さているのではないかと。

それと、何かを伝えるとき、社会的な制約があるのは普通で、そういう制約があるから、文学や音楽やアートが意味を持ちます。

個人的には、「上品な言葉遣い」というより「柔らかな言葉遣い」を身体化したい。ご覧のようにカッチカチでほど遠いですが…

 

蝉。上手く撮影できて嬉しいので、ここにもアップしますーー。

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「文字と組織の世界史:新しい「比較文明史」のスケッチ」読書メモ

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歴史好きです。昔の人たちが、どんな言葉で話していたか、文字を使っていたのかが気になって仕方がありません。Amazonで同書のコメントに「カタログのようで期待はずれ」とありましたが、誘惑に勝てず買ってしまいました。長らく入浴時のお供でしたが、想定外に面白かった!ので必須の箇所のみ備忘メモ。★は僕の感想。

文字と組織の世界史:新しい「比較文明史」のスケッチ

文字と組織の世界史:新しい「比較文明史」のスケッチ

  • 作者:鈴木 董
  • 発売日: 2018/09/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

* * *

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★同書では↑のように世界を色分けします。

・「ただカエサル暗殺後、オクタヴィアヌスが自ら共和制派を考慮し、プリンケプス、すなわち「ローマ市民の第一人者」にして「元老院議員の第一人者」を称したが、アウグストス(権威者)の称号もえて、権力を集中してプリンキパトゥス(元首政)が始まり、これが次第に帝政に転化していったのである。従ってインペラトルがエンペラーとなり、エンペラーのいる国がエンパイア、すなわち近代西欧的意味での定刻になったのである。」(P78)

・「このタラス河畔の戦い」の際に唐軍の捕虜のなかに紙すき工がおり、これが製紙法が西方に伝わった起源だと一般には言われている」(P98)

・「このようにイスラム世界では、ムスリムと「啓典の民」ないしそれに準ずる非ムスリムが、不平等の下ながら共存ないし共存が許容されるシステムが成立していた。またこのシステムがの存在こそが、急速な拡大にもかかわらず恒久的なムスリム支配が定着した大きな理由ではないかと思われるのである」(P103)
イスラム教の国では、非ムスリムイスラム教徒でない人に「人頭税」(ジズヤ)をかける。強制改宗させると財源がなくなるという、共存の仕組み。

・「重要な貿易上の港湾である広州の管理をとりしきる提挙市舶司に、ムスリム系の蒲寿庚が任ぜられ活躍したことは、その証左のひとつといえる。」(P134)
★今回もっとも新鮮だった箇所。南宋の時代。僕らの時代の東洋史ではほとんど習わなかったけど、大陸の歴史ではこんなmixed cultureは普通にある。

・(鄭和の南海大遠征について)「総司令官の鄭和ムスリムであり、ムスリムが仕切ってきた「海のシルクロード」への進出にあたり、ムスリム・ネットワークに依拠しえたところが大きかったものと思われる。」(P154)

・「開国以来、日清・日露の両戦争を除き宣戦布告を伴う近代西欧ベースの国際法に基づく国際法上の正式な戦争を日本は経験したことがなく、日本にとってその実態は大戦争であった日中戦争でさえ、事実上の戦闘として「支那事変」と称していた。「大日本帝国」にとって、近代西欧で成立しグローバル・モデル化した近代国際法上の諸原則への理解が、異文化的理解にとどまった側面があったのではあるまいか。」(P304)
★日本についての驚くような指摘をさらっと書いてあるのも同書の特徴。

・「一方、ユーゴスラヴィアに属していたボスニア・ヘルツェゴビナムスリムカトリック、正教徒が混在する社会であった」(P322)
★映画「ライフ・イズ・ミラクル」でバルカン半島の世俗化したムスリムについて知ったが、日本語の情報はほとんどない。

・「1920年代後半以降、空母戦闘機が主力になっていく技術的趨勢を海軍主流は十分理解せず、大艦巨砲主義固執したことにより技術的劣位に陥り、のちに太平洋戦争中のミッドウェー海戦で米海軍に大敗することとなった。」(P300)

・「国費の多くを消費しながら。海軍と異なり産業に転用しうる技術革新をほとんどもたらさず、国政に多大に干渉して敗戦を招いた「帝国陸軍」の解体により、国費の民生への潤沢な投資が可能になったことも、社会経済の発展に資したといえよう。」(P361)
★こういう見方があるのだなあ。

・「実際、1826年に始まったオスマン帝国のマフムート二世改革により、近代西欧モデルの軍隊の制服は、洋服となった。かぶり物についてだけは、ターバン等は廃したものの、おそらく「不信心者の帽子」として刺激の強すぎることをおもんばかって、西洋式の軍帽ではなくフェス(モロッコ帽)にかえた。西欧人や我々がトルコ帽と呼ぶものである。」(P374)
★現代でも、ムスリムの女性が「ヒジャブ」をかぶるかどうかが問題になる。近代西欧とイスラムの相克は、最後は「モード」として現れるらしい。

★本のタイトルの通り、「組織」についても触れており、とくに「科挙」の革新性については絶賛している。

 

* * *

 

自分用の備忘として↓。

読書「明日を拓く現代史」(谷口智彦著)
ブレトン・ウッズ体制について認識ができた。

本「イスラームから見た世界史」
イスラム教について全体イメージができた。


もうひとつメモ。「歴史界のアウトロー」としてリスペクトしている岡田英弘先生は、「歴史とは書かれた(記録された)ものである」と定義して、「インドは歴史がない文明」おっしゃるのは、下記のような理由があるとTwitterの方に教えていただきました。

 

歴史は面白いですねーーー。