きずなメール・プロジェクト 代表のblog

顔と名前を出す人生です。

読書メモ「虐待予防は母子保健から 指導ではなく支援」

ども虐待の洞察に優れた本といえば杉山春さんを思い出しますが、「虐待予防は母子保健から 指導ではなく支援(鷲山拓男)」も素晴らしい内容でした。

まず団体スタッフ、その上で広く皆さんにも共有したいのでメモをまとめました。あくまで個人メモを公開する形なので、わかりにくさはご容赦ください。【】は引用、・(ナカグロ)は僕の所感。

保健師」とは、保健師国家試験と看護師国家試験を通過した国家資格者です。英語で「public health nerse 」なので「市民の健康を見守る看護師さん」でしょうか。

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保健師は、親が抱える問題の核心に触れ、親が「今までの自分を変えたい」と思い立った瞬間に出会うことができる数少ない職種です。】(P5)

児童福祉法第6条の3第4項「乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)」を含めて、専門職としてコンタクポイントが法的に整備され、その最前線にいるということが実感できる一文。

【子どもの虐待はその存在を長く社会的に否認されてきました。米国の小児科医ケンプらによって1960年代前半の米国で虐待の存在が明らかにされ…】(P11)

・同書では子ども虐待を歴史的に俯瞰する記述が複数ある。自分のために表にまとめた。

見やすいように画像で貼り付け。オリジナルはスプレッドシートに。

子ども虐待対応の歴史変遷 - Google スプレッドシート

【子どもの虐待では、児童福祉は「虐待対応」、 母子保健は「虐待予防」という異なる領域なのです。(P15)

・「対応」と「予防」の違いはまだまだ一般化してない。きずなメールが目指すのは、子ども虐待の「予防」。

【子どもの 虐待という問題の特徴は「否認」です。社会が問題を否認し、医師などの援助専門職も虐待という問題を長く「否認」してきました。】(P16)

【 2016年の母子保健法改正で、14年ぶりにあらためて、今度は通知ではなく法の条文で、虐待予防が母子保健の仕事であることが明記されました(鷲山、2019a)。全ての自治体で虐待予防の取り組みが求められます。】(P17)

(社会が虐待の存在を認めない「社会的に否認」に触れた後、)【ひとつだけ、わが国が1970年代から問題視していた暴力の形態がありました。「家庭内暴力」と名付けられた”子どもから親への暴力”です。家族の中で能力的にも法的にも弱い立場にある子どもが大人に手をあげたときだけを「暴力として問題視」し、その他の暴力は「しつけ」「懲戒」として正当化するか、または、「ない」ことにしてきたのです。】(P18)

【虐待ハイリスクの代表格とされる10代出産の母親たちと多く出会います。】(P23)【17歳の女子にすら学業をやめて子育てに専念しろと強いる社会とは何なのでしょうか。
「母親なのだから努力するのが当然だ」
「3歳前の子どもを保育園に預けるなど、子どもがかわいそうだ」
 言っている側は正義を行っていると信じているため反省することがありません。わが国の社会は育児の責任を母親に押し付け、孤立した子育てと追い込みます。】(P25)

【虐待とは「虐待する親の問題」ではなく、「養育能力の低い親と子供を孤立に追い込む地域社会の問題」なのです。】(P25)

・この言葉は、何度でも繰り返したい。

【生活臨床】(P26)、【陰性感情】(P27)

【来てくれた看護職は助けてくれるしその能力があるという暗黙の約束俺達の信頼があるとオールズは指摘し(Olds,2013)、その根拠として世論調査(Gallap,2010)看護職が誠実さと倫理の高い職業の不動の1位とされていることを例示しています(渡邊ら、2017)。】(P32)

・ 医師と同様、国家が育成のために投資して法的な位置づけを保証している専門職には、生活レベルで無言の信頼がある。

【2016年の母子保健法改正で虐待予防が母子保健の仕事であると情文に明記されてようやく、母子保健は子供虐待に正面から目を向けるようになりました。】(P58) 

【ボウルビィが強調しているのは、母親が育てることではなく、 アタッチメント対象となる保育者が数人以下に固定されていることです(榊原、2001)。】(P63)

・ 個人的には、これが確認できたのが大きかった。「愛着形成」というと「母親の継続的な養育」というイメージがあるが、そうではない。血縁がなく、複数でも大丈夫で、「数人以下に固定されていること」が重要という記述。子どもの愛着形成に血のつながりは関係ない。人によると思うが、僕にとっては気持ちがとても楽になる要素だ。

(ヒトは)【両親以外の多くの個体が子育てに関わる「共同繁殖」の動物であることは生物学者によって知られています(第2回:長谷川、 2016)。】【核家族化と子育て環境の孤立化は「共同繁殖の破壊」です】【虐待とは親の問題ではなく地域社会(共同繁殖者)の問題であると捉えることが予防の第一歩です。】【良いお家になるように指導し、訓練し、親を変えていこうとするのではなく、「このままの私でやって行く」(鷲山、2016a)こと、その人にとって無理なくできる子育ての仕方で良いと思えるようになることが子どもの虐待を予防します。】(P64-65)

【” こころの問題”を 援助者が客観的に観察できるなどという幻想を退けることは、こころを扱う援助では基本に属します。】(P69)

【「善意」はしばしば有害であり、「熱意」は非常に危険です。そして「正義」はもっと危険です。】(P71)

【「赤ちゃんが泣くとあなたは怒りますか」ではなく「赤ちゃんの泣き声があまりにもひどいとき、もう耐えられないと感じることはありますか」と聞く、そのような配慮が必要です(Steele&pollock,1968)。】(P73) 

【小児科医クルーグマンは、「メディアはセンセーショナルな事件や虐待対応システムの悲劇的な失策ばかりを報道するのではなく、虐待という問題の複雑さを人々に納得させる大切な役割をになっている」「子どもの虐待とは、手っ取り早い解決策が役立つような単純な問題ではない」と述べています(Krugman,1997)。】 (P77)

・問題の複雑さをできるだけ多くの人々に理解してもらうのが、僕らの仕事でもある。

【新型コロナウィルス問題で自宅内に孤立し本来必要な地域支援を利用できず、 援助関係形成も困難になっていく社会状況のもとでは、虐待が生じる可能性が高まります。】(P80)

(新型コロナウィルスまん延下で)【”こういう時くらい子どもは家庭で母親が見ろ”とばかりに社会による子育て機能が停止したのです。】(P81)

【虐待死亡事件をめぐるセンセーショナルな報道のたびに、児童福祉行政の施策ばかりの指摘、加害者とされた親への避難が沸き上がります。親を裁く法廷の描写が流布され、重い判決に世の人々が溜飲を下げます。しかし 、このような報道に引きずられた児童福祉政策は、子どもを守ることにも虐待を減らすことにもつながりません。】(P90)

【米国のヘルファらは、「どの民族であっても、幼い子どもを抱えた、配偶者のいない、貧しい母親が、最も虐待に陥りやすい」と述べています(第9回)。】(P96)