きずなメール・プロジェクト 代表のblog

顔と名前を出す人生です。

「文字と組織の世界史:新しい「比較文明史」のスケッチ」読書メモ

f:id:yukkiestar:20200809042808j:image

歴史好きです。昔の人たちが、どんな言葉で話していたか、文字を使っていたのかが気になって仕方がありません。Amazonで同書のコメントに「カタログのようで期待はずれ」とありましたが、誘惑に勝てず買ってしまいました。長らく入浴時のお供でしたが、想定外に面白かった!ので必須の箇所のみ備忘メモ。★は僕の感想。

文字と組織の世界史:新しい「比較文明史」のスケッチ

文字と組織の世界史:新しい「比較文明史」のスケッチ

  • 作者:鈴木 董
  • 発売日: 2018/09/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

* * *

f:id:yukkiestar:20200809043005j:image

★同書では↑のように世界を色分けします。

・「ただカエサル暗殺後、オクタヴィアヌスが自ら共和制派を考慮し、プリンケプス、すなわち「ローマ市民の第一人者」にして「元老院議員の第一人者」を称したが、アウグストス(権威者)の称号もえて、権力を集中してプリンキパトゥス(元首政)が始まり、これが次第に帝政に転化していったのである。従ってインペラトルがエンペラーとなり、エンペラーのいる国がエンパイア、すなわち近代西欧的意味での定刻になったのである。」(P78)

・「このタラス河畔の戦い」の際に唐軍の捕虜のなかに紙すき工がおり、これが製紙法が西方に伝わった起源だと一般には言われている」(P98)

・「このようにイスラム世界では、ムスリムと「啓典の民」ないしそれに準ずる非ムスリムが、不平等の下ながら共存ないし共存が許容されるシステムが成立していた。またこのシステムがの存在こそが、急速な拡大にもかかわらず恒久的なムスリム支配が定着した大きな理由ではないかと思われるのである」(P103)
イスラム教の国では、非ムスリムイスラム教徒でない人に「人頭税」(ジズヤ)をかける。強制改宗させると財源がなくなるという、共存の仕組み。

・「重要な貿易上の港湾である広州の管理をとりしきる提挙市舶司に、ムスリム系の蒲寿庚が任ぜられ活躍したことは、その証左のひとつといえる。」(P134)
★今回もっとも新鮮だった箇所。南宋の時代。僕らの時代の東洋史ではほとんど習わなかったけど、大陸の歴史ではこんなmixed cultureは普通にある。

・(鄭和の南海大遠征について)「総司令官の鄭和ムスリムであり、ムスリムが仕切ってきた「海のシルクロード」への進出にあたり、ムスリム・ネットワークに依拠しえたところが大きかったものと思われる。」(P154)

・「開国以来、日清・日露の両戦争を除き宣戦布告を伴う近代西欧ベースの国際法に基づく国際法上の正式な戦争を日本は経験したことがなく、日本にとってその実態は大戦争であった日中戦争でさえ、事実上の戦闘として「支那事変」と称していた。「大日本帝国」にとって、近代西欧で成立しグローバル・モデル化した近代国際法上の諸原則への理解が、異文化的理解にとどまった側面があったのではあるまいか。」(P304)
★日本についての驚くような指摘をさらっと書いてあるのも同書の特徴。

・「一方、ユーゴスラヴィアに属していたボスニア・ヘルツェゴビナムスリムカトリック、正教徒が混在する社会であった」(P322)
★映画「ライフ・イズ・ミラクル」でバルカン半島の世俗化したムスリムについて知ったが、日本語の情報はほとんどない。

・「1920年代後半以降、空母戦闘機が主力になっていく技術的趨勢を海軍主流は十分理解せず、大艦巨砲主義固執したことにより技術的劣位に陥り、のちに太平洋戦争中のミッドウェー海戦で米海軍に大敗することとなった。」(P300)

・「国費の多くを消費しながら。海軍と異なり産業に転用しうる技術革新をほとんどもたらさず、国政に多大に干渉して敗戦を招いた「帝国陸軍」の解体により、国費の民生への潤沢な投資が可能になったことも、社会経済の発展に資したといえよう。」(P361)
★こういう見方があるのだなあ。

・「実際、1826年に始まったオスマン帝国のマフムート二世改革により、近代西欧モデルの軍隊の制服は、洋服となった。かぶり物についてだけは、ターバン等は廃したものの、おそらく「不信心者の帽子」として刺激の強すぎることをおもんばかって、西洋式の軍帽ではなくフェス(モロッコ帽)にかえた。西欧人や我々がトルコ帽と呼ぶものである。」(P374)
★現代でも、ムスリムの女性が「ヒジャブ」をかぶるかどうかが問題になる。近代西欧とイスラムの相克は、最後は「モード」として現れるらしい。

★本のタイトルの通り、「組織」についても触れており、とくに「科挙」の革新性については絶賛している。

 

* * *

 

自分用の備忘として↓。

読書「明日を拓く現代史」(谷口智彦著)
ブレトン・ウッズ体制について認識ができた。

本「イスラームから見た世界史」
イスラム教について全体イメージができた。


もうひとつメモ。「歴史界のアウトロー」としてリスペクトしている岡田英弘先生は、「歴史とは書かれた(記録された)ものである」と定義して、「インドは歴史がない文明」おっしゃるのは、下記のような理由があるとTwitterの方に教えていただきました。

 

歴史は面白いですねーーー。