きずなメール・プロジェクト 代表のblog

顔と名前を出す人生です。

本当に「プッシュ型」できていますか…? こども政策における「プッシュ型」情報発信について

本論は下記ような方に向けて書いてます。

・市民の情報の取得格差が大きくなっている今、「基礎自治体として漏れなく情報を届ける」という社会的要請について考えている方。
・行政には人の助けになるサービスや事業があるので、必要とする人にそれを知ってもらいたい、届けたいという想いがある方。

 

目次


こども政策における「プッシュ型」とは?

2021年12月21日に閣議決定した「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」に「SNSを活用したプッシュ型の情報発信の充実」という文言が入りました。

 

現在、こども家庭庁では「プッシュ型の伴走型支援」を推進しています。

それにしても「プッシュ型」とは何でしょうか。改めて整理します。

 

そもそも「プッシュ型」とは?

 

自分から情報を取りにいくのが「プル型」。紙の情報媒体なら、置かれたチラシを手にとることが代表的です。

受け取りに同意したら、その後自動的に情報が届くのが「プッシュ型」。紙の情報媒体の代表が「新聞」「手紙」です。

 

情報洪水時代の「新しい孤立」→「プッシュ型」が必要

今、プッシュ型が言われるのは、情報洪水時代だからです。下記は2014年に総務省が作った「デジタルデータ量の増加予測」です。2000年以降、爆発的に増えています。

図表3-1-1-1 デジタルデータ量の増加予測 (出典)総務省「ICTコトづくり検討会議」報告書 よりhttp://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc131110.html (出典)IDC’s Digital Universe, 「The Digital Universe of Opportunities:Rich Data and the Increasing Value of the Internet of Things」Sponsored by EMC(2014年4月)等により作成したのもに、赤い部分は筆者が追加。

図表3-1-1-1 デジタルデータ量の増加予測 (出典)総務省「ICTコトづくり検討会議」報告書 よりhttp://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc131110.html (出典)IDC’s Digital Universe, 「The Digital Universe of Opportunities:Rich Data and the Increasing Value of the Internet of Things」Sponsored by EMC(2014年4月)等により作成したのもに、赤い部分は筆者が追加。

赤いグラフは、僕が追加した2025年の予測データですが、上部はここに入り切らないのでカットしています。2025年の予測で「135ZB(ゼタバイト)」。1ゼタバイト(ZB)=10億テラバイト(TB)=1兆ギガバイト(GB)で、「地球のすべての砂浜の砂つぶと同じくらいの情報量」。それとは気づかないうちに、誰もが凄まじいデジタル情報量の中で暮らしています。

ここで起きているのが、「フィルターバブル」(filter bubble) です。情報洪水のなかで、物理的にも心理的にも、自分が見たい情報=「泡」(バブル)だけに包まれている状態です。

上の図は、フィルターバブルに囲まれた個人が孤立しているイメージ。情報洪水時代の「新しい孤立」です。右上の自治体には、このバブルを突き抜けて情報を届けるMissionがあります。ひとりの人間が生活のなかで受け取れる情報量は限られているのです。

プッシュ型の課題とは?

①最初に「オプトイン」してもらう必要がある。

「プッシュ型」には受け取りの同意/不同意というプロセスがあります。専門用語で「オプトイン/オプトアウト」といいます。「プッシュ型」を機能させるためには、最初に「受け取りに同意/オプトイン」してもらう必要があります。

②「プッシュ」しすぎると嫌がられる。

受け取りの同意/不同意=オプトイン/オプトアウトに関わらず、プッシュしすぎると、嫌がられます。重要なのは「受け取りに同意/オプトイン」していても、送りすぎると嫌がられる、という点です。

 

大事なので、繰り返します。「プッシュ型」といっても、

①最初に「オプトイン」してもらう必要がある。

②「プッシュ」しすぎると嫌がられる。

という原則があります。基本的なことですが、見逃されがちな原則です。これを考慮して「プッシュ型」を設計しないと、必要な人に必要な情報を届けられない、ということです。

 

自治体、地方議員の方が注意すべきポイント

①「アプリ=プッシュ型」でなはい。

「アプリによるプッシュ型の情報発信」「アプリを導入するとプッシュ型になる」という考え方が根強いですが、「アプリ」とは単にプログラムの一形態なので、どうのように使われるかを考えて設計し、かつリリース後も継続的に改善しないと「プッシュ型」として機能しません。

②LINE=万能なプッシュ型ツールではない。

LINEが現在「プッシュ型」のトップツールなのは確かですが、「②「プッシュ」しすぎると嫌がられる」という原則は変わりありません。実際に「きずなメールだけ読みたいけど、不要な情報もいっぱいくるので結局ブロックした」という声は複数届いてきています。

③大事なのはアクティブユーザー。

議会も自治体も、「登録数」「ダウンロード数」を質問したり答えたりしています。ですがご自身の生活の中で「登録したけどそれっきり」「アプリをダウンロードしたけど、結局使ってない」などに心当たりはないでしょうか。

大事なのは、実際のそのアプリやメッセージを開いている「AU」=アクティブユーザーです。累計のダウンロード数やメールマガジン登録者数を把握していても、「AU」=アクティブユーザーを把握していないと、実際に、いま何人の方に情報が伝わっているかわからないのです。
AU」=アクティブユーザーはこの↓3つが基本です。

最も重要なのが「DAU」=デイリーアクティブユーザーです。LINE社によると、2023年9月末時点の「LINE」のMAUは約9600万人、DAUはその86%なので約8256万人。ケタ違いです。

アクティブユーザーについては過去に何度か取り上げていますので、下記に参考に。

【議員さん、行政職員の方向け】母子保健、子育て支援の「プッシュ型」情報発信が、本当に役立っているかわかる指標について。

子育て世代への情報発信が重要だと感じている行政職員、地方議員がぜひ知っておきたい指標
④「ワンストップ」「一元化」では届かない。

DXの流れの中で、情報発信の「ワンストップ」「一元化」が言われていますが、史上初の情報洪水時代です。自治体が「ワンストップ」「一元化」したいウェブサイトやアプリの存在を「知ってもらって」さらに「オプトインしてもらわないといけない」ので簡単ではありません。しかも状況は常に動いていて、流動的です。

費用対効果を考えると「すでに市民が使っている媒体(メディア)に情報発信する」という考えが出発点になります。You TubeTikTok、X(旧Twitter)、InstagramFacebook(←高齢化といわれています)、LINEなど。LINE社が基礎自治体にはひとつだけ、無償でLINE公式アカウントを提供しているのは周知の通りです。ウェブサイトは「アーカイブ」的な機能は◎ですが、プッシュ型としては機能しにくい。

あと「すでに市民が使っている媒体(メディア)に情報発信する」という考え方からすると、見逃されがちなのが「メール」です。特にgmailicloudのメールアドレスはiPhoneAndroidを買う際に誰しも必ず使うので、メールは「基礎メディア」状態です。こちらも過去記事を参考になさってください。

公的な情報を届けるための最大公約数を考えると「メール」が残る。メールは「基礎メディア」。 

 

次回以降も引き続き、プッシュ型の課題について説明していきます。アプリ、ポータルサイト、UI(ユーザーインターフェース)、サーバの速度などの観点を取り上げます。(了)