きずなメール・プロジェクト 代表のblog

顔と名前を出す人生です。

第29回外来小児科学会年次集会「子育ての、そばにいる人は誰?」参加メモ

第29回外来小児科学会年次集会に行ってきました。一番の目的は、「子育てきずなメール」基本原稿制作監修プロジェクトメンバーである吉永陽一郎先生の「会頭講演」。先生の大きなテーマである「子育ての、そばにいる人は誰?」という問いは、年次集会のキーワードにもなっています。

 


真ん中が吉永先生。左は大阪でお世話になっている産婦人科医の飯藤豪一先生。講演は撮影禁止なので、この3ショットになりましたー。


以下いつものように、主にスタッフへの情報共有を目的とした個人メモ。★は僕の独り言。“走り打ち”なのでキーワードだけの場合もありますが、ご容赦ください。


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●吉永先生講演
・講演のテーマも「子育ての、そばにいる人は誰?」。
・25年前、恩師にいわれて「育児療養科」という新しい科に任命された。
★医療に加えて、育児不安への対応など、子育て支援を重視した試みのよう。
・新生児医療は面白かった。
★「医療保育士」というのは初めて知った。
・先端医療に「心」を持ち込む、という心意気。
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・「聴くということ」「ふれるということ」この2つを重視している。
・「問いに答える」のではなく「あなたの言葉を受けとめました」というアクションが大事。
・フランスの哲学者シモーヌ・ヴェイユの言葉を引用。
★メモれなかった汗
バイスティックの7原則。
★保育士やソーシャル・ワークでも出てくる。
(参考)バイステックの7原則|介護福祉士の試験対策はケアトレ
・オープンクエスチョン、クローズド・クエスチョン、スケーリングクエスチョン。
・パーソナルスペース。
・支援者も発達する。
・他人の悲劇を経験する。
・「沈黙」という会話。
寺山修司『現代人が失いかけているのは「話しあい」などではなくて、むしろ「黙りあい」だ』
★そうかもしれない。沈黙が怖い。沈黙しあっても大丈夫な関係性。「そばにいる」とはこういうことかな。
・「自分の同一性の外に出る用意がある」
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・触れるということ。
・発達共作用理論
・新生児個別発達評価法
タッチケア 
保育所でもタッチケア
・障害児施設でもタッチケア
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・愛着形成という育児支援
・育児情報も、そばにいる。
・そばにいる、い方はそれぞれ。
・そばにいる、い方を探りながら。やっていきたい。
・家内と娘に感謝。

★そばにいる、沈黙もある、それぞれの距離感がある。「距離感の感じ方」が大事なのかもしれない。
★個人的に「認知すれども干渉せず」という距離感が作れる場は、理想だと思う。
★「干渉しない」という否定形より、「そこにいるのはわかっているしいてほしいとも思っている。でも過度には関わらない。必要ならいつでも味方になるよ」的な距離のイメージがよいのかも。
★こういう感性が「子育てきずなメール」に生きていることを、誇りに感じる。


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「会頭講演」に加え、「会頭招聘講演」もあります。そのひとつ、自民党自見はなこ参議院議員の講演は法律面、つまり“ガバナンス”の観点からの重要情報と最新の知見に溢れたものでした。

・成育基本法超党派議員立法として、国会最終日の夜中の2時に全会一致で成立した。
・理念法。
・子どもの法律に横串を指す法律。
・性に関する教育も含む。
・今年の12月8日から施行。
・協議会で協議し、それを閣議決定する。
・年に一度必ず施策を公表する。
・こどもの政策は内閣府厚労省文科省の3重行政。これを統一する省庁が必要。
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・CDR(Child Death Review/子どもの死因究明)の体制整備に取り組む。
・子どもの死因をすべて検証する。病死以外。行政コストも検証しながら制度設計。
石井みどり参議院議員、「死因究明等推進基本法」に尽力。
・これまでCDRは厚労省の職員ひとりの担当だったが、この法律で拡充できる。
・子どもの死因の情報は警察にある。CDRの仕組みで開示請求できるようにしていく。ここがんばりたい。
★日本の児童虐待の状況は「児相への相談件数」が目安になっているが、相談にいたらないものも多数であるのは想像に難くない。CDRがここに切り込む形になるのではないか。

 

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他のプログラムも共有。

 

北九州市には市川光太郎という、小児救急医療分野で尊敬を集めておられた先生がいて、昨年ご逝去されました。その薫陶を受けた医師が全国にいて、門外漢の僕でさえ何度も名前を耳にしました。「救急医療・児童虐待から命を守る」シンポジウムは、同医師が生前に企画し、遺志をついで開催されたもの。そこでの重要情報の備忘。


前提となる知識として、児童虐待の増減は児童相談所への相談件数でカウントされます。相談件数の中で身体的虐待の割合は低いですが、それは発見や通報が難しいから。シンポジウムでは、児相に通報にされる以前の、重症化したケースが紹介されました。

 

・多すぎる虫歯はネグレクトの可能性高い。
杏林大学虐待防止委員会のデータで過去4例あった。いずれも虫歯10本以上。
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・身体的虐待の可能性の見分け方として「TEN」がある。特に4歳以下の子どもが

T torso 胴体
E ear 耳
N neck 首

TENに外傷がある場合、疑いは高まる。なぜなら自然外傷は四肢(脚や腕)に現れるが、人的外傷は胴体(腹部、臀部)、耳、首、つまりTENに現れるから。
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・虐待による頭部外傷を「AHT」(Abusive Head Trauma)という。揺さぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome)より上位の概念。
★脳の写真で検証。直視できなかった。
・乳幼児の身体的虐待死は、心中以外では、AHTの割合が多い。
★ある事例は、発表する方もキツそうだったし、聴く方もキツかった。
★「力で他者(子どもも大人も)をコントロールする」という行為自体をなくしていきたい、と改めて感じた。

 

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2日目の特別講演「つながり過剰症候群の時代」は筑波大学人文社会系教授、土井隆義氏。医師ではなく社会学の先生です。

 

・子どもの「ネット依存」は楽しいから、だけではない。
・快楽のため(コンテンツ)/不安のため(SNS)、という分け方。
・仮想現実から拡張現実へ。
★ネット社会は「新しい現実」だと思う。
・子どもたちは「仲間ハズレにされないよう、話題を合わせる」
スマホデビューしたばかりの子ども、SNS友だち獲得競争。
・「人間関係の流動化」
★「友だち」の定義が変化している。
・友人関係には「個人的要因」「制度的要因」がある。クラスが同じで友だちになるのは「制度的要因」。近年は「個人的要因」の比重が高まっている。
★むき出しの人間関係。むき出し=ナチュラルでもあるので「自然な人間関係」ともいえる。ネットが「制度的でない、自然な人間関係を作り出している」という逆説。
・人間関係への満足度は一般的に上がっている
・クラスが関係性の基盤に根拠にならない。
・「不満」は減っているが、「不安」は高まっている。
・「コミュニケーション能力」という語が2003年を境に、新聞に出てくる数が増えている。
社会学における「言説分析」。僕が好きな分野でもある。
・相手の心を読むのが苦手な子ども=発達障害の子どもには生きづらい時代。
・反抗期のない子どもが増えている。
・日本では「伝統離脱」が進んでいる。
・世代間で価値観のフラット化が進んでいる。
・親と意見が合わないのは、電話、携帯電話の使い方のみ。それ以外はかなり意見が合っている、というデータがある。
・「世代間ギャップの縮小」はすなわち「共通の敵の消失」でもある。
・子どもたちの憧憬。
昔:「自由がある」
今:「居場所がある」
★!そうかもしれない。
・昔:「見られているかもしれない不安」
 今:「見られていないかもしれない不安」
・「内閉化」が起こっている。
SNSは子どもたちにとっては「仲間だけでつながる装置」。特にLINE。
・ネットで、見知らぬ人と出会うことは減ってきている。
・交友圏の内閉化。
・「いつメン」=いつも一緒にいるメンバー。ティーンエージャーのジャーゴンとして定着しているらしい。
★僕は団体内で「フィルターバブル」「タコツボ化」「エコーチェンバー現象」をテクニカルタームにしようとしているが、「内閉化」は類似の意味に近い。
★★一方で僕は「ポジティブなエコーチェンバー現象」もあるし、実際に起こっているとも思う。例えば、うちの団体の中で。


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吉永先生以外の、「子育てきずなメール」プロジェクトメンバーである川村先生、田原先生、田中先生、また退任された森田先生にもお会いすることができました。

 

帰途、インプットで頭がパンパンなうちにアウトプット、ということで帰りの飛行機の中でこれをまとめていると、窓の外に富士山が!


視線を機内に戻すと、前の方が見ていたテレビに「幸福は他人に対しても義務である(アラン)」とテロップが出ていました。うーむ。

 

現場からは以上です。