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「保育園に通えない子どもたち~「無園児」という闇」読書メモ

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#stayhome により読書強化月間継続中。今回は「保育園に通えない子どもたち~「無園児」という闇」 (ちくま新書/2020/4/7)。副題の「無園児」とは、保育園、幼稚園に通っていない「未就園児」と、「無縁」をかけた言葉(P8)です。 

著者の可知悠子先生には、団体理事の太田寛先生のご縁で、きずなメールが自治体で実施にしているアンケート調査について相談させていただいたことがあります。専門分野は公衆衛生学。お会いしたとき、同じ研究室の江口尚先生とともに、貴重なご助言をいただきました。

 

保育園に通えない子どもたち (ちくま新書)

保育園に通えない子どもたち (ちくま新書)

  • 作者:可知 悠子
  • 発売日: 2020/04/07
  • メディア: 新書
 

同書を読むと、今の日本の子どもに関わる社会課題について、制度について、最新のエビデンスについて、網羅的に知ることができます。「子どもの貧困」「子ども虐待」などの社会課題も、「無園児」という切り口により、新しい視点を得られます。

以下、スタッフへの共有を兼ねた備忘メモ。メモは完全に個人的な視点なので、偏りもあり、本の全体像とはズレがあることお含みおき下さい。記載ルールは下記の通り。

「 」=本の抜粋
( )=僕の補足
★=僕の独り言

* * *

 

・「3歳から5歳まで合わせると、およそ9.5万人の子どもが、保育園にも幼稚園にも通っていませんでした。」(P21)
・(アメリカの経済学者であるグレッグ・ダンカンらの研究グループによると)「妊娠中から5歳までの貧困体験が、6~10歳、11~15歳までの貧困体験と比べ、成人期での収入への影響が最も大きいことが明らかになりました。」(P49)
・「幼児教育の効果を検証した研究の中でも、もっとも有名な研究は、シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授らによる「ペリー就学前プロジェクトです。(中略)ヘックマン教授らは、貧困家庭の子どもたちのその後の社会的不利が改善されたのは、幼児教育によって、意欲、忍耐力、協調性といった「非認知能力」が改善されたからだと言います。」(P54~56)
・「日本でも、東京大学の山口慎太郎教授が、一般の保育園通いの効果を検証しています。(中略)社会的に不利な家庭では、保育園に通うことで、母親の子育てストレスやしつけの仕方が大きく改善し、子どもの多動性・攻撃性も大きく減少するという知見が得られたためです。」(P58~59)
・(認定NPO法人PIECES代表理事小澤いぶきさんインタビューより)(外国籍の子どもや家庭の話の流れで、)「情報が届かない、情報があってもその情報の言語の理解が困難であることや、サービスの窓口での手続きの煩雑さや言語の壁などが、助けを求めることへのハードルを生み出しているかもしれません。」(P88)

・「カナダのオンタリオ州に、「ファミリーリソースセンター」という子育て支援施設があります。」(P88)
★「ファミリーリソース」=「家族の資源」という視点に共感。
・「学校教育の中で、「自分を大切にすることは誰かに頼ることでもある」ことや、「子どもを育てるというのはどういうことか」、「育てるのにどんな制度があるか」などを、学んでいけることも大切なのではないかと思います。」(P92)
★自立とは依存先を増やすこと。
・「さらにメディアのあり方も変わっていく必要があるのではないかと思います。アメリカでは、アメリカの疾病予防管理センター(CDC)が、マルトリートメントが起きた時の報道についての提案をしています。アメリカのガイドラインには、マルトリートメントは公衆衛生の問題であることが書かれています。」(P92)
★マルトリートメントは、日本で言う子ども虐待のこと。日本では児童福祉の視点からしか議論されないが、「公衆衛生の問題」と捉える視点が新鮮。
・(神奈川県のNPO法人K、O理事長インタビューより。制度面で何が必要ですか、との問いに対し)「大前提として、「社会的に弱い立場に置かれがちな人のニーズを基に、社会制度を設計しなおす」ことが必要と感じます。」(P110)
・(2019年10月から始まった幼児教育・保育の無償化に対し)「私が一番気になっているのは。「誰のために無償化するか」という理念です。」(P116)
・(国会審議をビデオライブラリでチェックすると、)「二十代や三十代の若い世代が理想の子ども数を持たない最大の理由は、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」だ、だから少子化対策として無償化が必要だ、というセリフが何度も繰り返されました。それを聞きながら、無償化で少子化が改善されるだろうかと、首をかしげました。」(P117)
・(保育士や幼稚園教諭の年収は)「責任の重い仕事をしているにもかかわらず、年収が全職種平均491万円(2017年)に比べると150万円ほど低い状況にあります。」(P118)
・「学術的には三歳児神話は根拠がないとされています。」(P121)
・「実は、市区町村ではすでに、既存の調査を通じて、無園児家庭を把握しています。」(P126)
・「希少な例として、東京都杉並区は2019年度から、無園児家庭へアウトリーチ(支援者が直接出向く家庭訪問)し、個々の状況に応じた子育て支援サービスの情報提供や相談をきめ細やかに行う、「子育て寄り添い訪問事業」を始めています。」(P127)
★団体事務所がある杉並区の先駆的な事例だけど、あまり知られていないので、広くアナウンスしたいところ。
・「切れ目のない支援によって、子どもが無園児になるのを防ぐことが可能だと考えています。」(P133)
・(無園児を減らす方策について、章タイトルにわかりやすく現れているので、以下、章タイトルをメモ)
(3)障壁を取り除く①ーーー申請のハードルを下げる。(P136)
(4)障壁を取り除く②ーーー多様な言語や文化への対応(P140)
(5)障壁を取り除く③ーーー障害のある子どもや医療的ケアの必要な子どもへの対応(P156 )
・(日本の在留外国人は、2018年では273万人)「2019年に施行された新たな在留資格「特定技能」では、介護や外食、農業など人手不足が深刻な14業種に5年間で最大34万5150人の受け入れが見込まれているため、在留外国人の数は今後さらに増加すると見込まれます。」(P142)
・「公衆衛生学は残念ながらあまり人気がなく、講義で社会資源とか連携とか言われてもピンとこない学生さんも多い(省略)」(P172)
・「社会をインクルーシブにしていくためには、就園の三つの壁の中でも、私たちの意識を変えていくことが何より大切でしょう」(P176)
・「子ども貧困の研究をしていると、貧困に対する大人の意識は少しずつ変わって来ているように感じます。」
★子ども虐待防止への意識も、少しずつ変わってきていると感じる。これは今の社会の良い部分。僕らはこの流れをさらに拡大していきたい。
・(以下、駒崎さんとのインタビューで、幼児教育の「無償化」ではなく「義務化」をイシュー化することについて、駒崎氏)「親だけで子育てするのではなく、外部の専門家と子どもが触れ合うという機会を担保する、つまり保育を通じて地域社会と接続するというようなイメージ(省略)」(P186)
★「幼児教育義務化」の本質は【地域社会とつながること】。児童福祉分野における「子ども家庭福祉」とほぼ同じ考え方で、重要な視点と思う。
(駒崎氏)「昔はみんなで一緒に同じことをさせるのが幼児教育だと思われていたんですが、現在は、工業社会に最適化させるような教育は古い、と考えられています。そうではなくて内発的に自分のテーマを自分で見つけて、そして自分で解決していく、というような学びの在り方というのが、これからのAI時代を生きる子どもたちに必要なものだといわれています。」(P187)
・(待機児童問題について可知先生)「ジェンダーの問題がとても大きいと感じます。もし待機児童問題で父親が仕事を失っていたら、社会的に大問題となると思います(以下省略)」(P190)
・(待機児童問題について駒崎氏)「ジェンダー不平等が、すごく背景にあるんですよね。(中略)、そういう意味では、ある種「日本病」というか、日本の抱える病がこの待機児童問題には凝縮されていると思います。」(P191)
・(駒崎氏)「子どもの最善を親の権利の上に置く、という考え方であるならば、この義務化は社会的に正当化され得るのではなかろうかと思います。」(P193)
・(駒崎氏)「確固として揺るがない親像というものは、捨て去るべきだと思うんです。親は、状況や環境によっていくらでも崩れてしまう、壊れてしまう存在だと思っていただかないといけない。伝統的な家族観を持つ人たちからすると許しがたいことかもしれませんが、現実的には、24時間365日見てたら耐えられん、放置したくもなりますよ、ということです。
可知 その伝統的家族観を持つ方に「子どもを一人で24時間見たことがあるんですか」と聞いてみたいです。経験のある方で、「私は絶対に大丈夫」と自信を持って言える人は、ほとんどいないのではないでしょうか。」(P194)


* * *

 

子ども二人の父として、同書が提起する問題とその方策を概ね支持します。インクルーシブな社会とは、情けは人のためならず、を可視化したような社会ではないでしょうか。個人的には、子育てにおける「レスパイト」も、一般化させて行きたいです。


コロナでも、季節は巡る。公園の新緑が眩しいです。

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