きずなメール・プロジェクト 代表のblog

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読書メモ:「権利擁護が支援を変える -セルフアドボカシーから虐待防止まで」

「アドボカシー」に興味があります。この本がアンテナに引っかかりました。

権利擁護が支援を変える -セルフアドボカシーから虐待防止まで

権利擁護が支援を変える -セルフアドボカシーから虐待防止まで

 

 

「アドボカシー」とは「弁護」「代弁」の意味。「政策提言」とも訳されます。まだ定義が固着していない、これから社会の中で意味づけられいく言葉です。

 

同書では「アドボカシー」について、海外の研究者の定義を引用しています。

 

アドボカシーは、特定の対象者(集団)のための既存の/今後の政策や実践を変える目的を持つ活動である(Ezell 2001:23)

  

さらにミクロ、メゾ、マクロに応じて、3つに分類しています。

 

ミクロ:①セルフアドボカシー
メゾ: ②市民アドボカシー
マクロ:③司法/立法アドボカシー

 

社会福祉分野で「ミクロ/メゾ/マクロ」という言葉に度々出会いますが、この分け方は結構しっくりきました。

 

「政策提言」は③。障がい者や子どもの代弁をするのが②。そして①は、自分自身の代弁。

 

「自分自身の代弁」とは矛盾した表現ですが、ここに同書の独自性を感じます。「代弁」という行為を突き詰めると、限りなく当事者に近づいていくことなる。「代わり」ではなくなる、というような。

 

何よりも、僕はアドボカシーの"目標”に、力をいただきました。

 

「セルフアドボカシーの主要な目標は、あなたが自分のために発言し、自分の人生に影響を与える決定に参画できるよう力をつける(empower)ことである。」


子どもや障がいを持った方など社会的に弱い立場になりやすい人々も僕ら大人も、誰もが、自分のために意思表示して、自分の人生を形作っていく。

 

今の時代は、僕らが”仕事”や”生活”と呼ぶものが、セルフアドボカシーに近づいているように感じます。また、自分たちの問いをそのまま社会化することを重視する「きずなメール事業」は、セルフアドボカシーに類似したcontext であるとも。


社会福祉分野では、こうした、複雑な自己認識を確認する地点が必ず出てきます。そこに面白さを感じます。

 

* * *

 

同書での「セルフアドボカシー」は、「権利擁護」とセットになって論と事例が展開されています。後半ではNPO等非営利組織の役割についても、かなりの精度で言語化されています。同書の主旨とはズレますが、NPO的に重要な部分を備忘としてメモ。

 

(同書のP200より)

NGONPOがそのプロジェクトについてアカウンタビリティを行うことは、NGONPOの実績の証明となる。アカウンタビリティが行わなければ、当然、その実績を見ることはできない。沈黙はアカウンタビリティにならない。(略)NGONPOは、外部委託された事業を遂行しえる実績を示し、かつ市民社会の強化に寄与する。(新田、2007:78)

 

「人々が社会に存在する問題を発見し、定式化して提起する」のは、必ずしも政治家や官僚に限らない。NPOがその役割を担い、そこから「人々の創意によって発展・進化する柔らかな制度である」「小さな制度」が生み出されることもある。しかし、そのプロセスの中で、NPOが活動実績に対して「沈黙」してはならない。「問題状況が認知され、対応を講ずることの正当性が理解される」ためにも、事業実績だけでなく、そこで見えた課題も含めて「アカウンタビリティ」を果たすことも、NPOのアドボカシー活動のひとつとして求められる。そのような「プロセス」は「大きな制度」(=立法)だけなく、「現場創発型」の「小さな制度」を創設するときも不可欠である。

NPOが活動実績に対して「沈黙」してはならない」とは、少し反省を持って受け止めました。

(同書のP202より)

この制度化への軌跡で興味深いのは、行政とNPOの関係性についてである。自治体のNPOに対する事業委託について分析した原田(2008)によれば、NPOのみを対象にした行政の補助・委託事業を「協働事業」と名付けた上で、その手法には

NPO側の企画提案

自治体の大まかな政策領域・課題の設定

自治体が事業内容を設定

の3種類があるという(原田、2008:43)。

(注意:改行は筆者による)

 

(同書の204Pより)

一方、地域福祉研究では、平野(2008)は制度外のニーズを政策化するため、ニーズの「読み解き」を通じて問題を発見し、優先順位などを「編集」した上で、政策プログラムとして「組み立てる」という政策形成の過程概念を提起している。先ほどの真山(2001)のモデルに引きつけるなら、事業実施後に依然充足されていないニーズををどのように「読み解き」、問題の発見から分析、政策過程の設定という形で「編集」し、新たな事業課題や事業案としてどのように「組み立てる」のか、という事業過程と政策形成過程の有機的な連続性が問われている。この際の「組み立て」は、平野(2008)によれば、県・国における政策化だけでなく、市町村における計画化・事業化、さらに実践組織での事業化の三段階に当てはめることが可能である、という。

 

元編集者である僕は、「編集」という言葉がカギカッコで2回出てくることが嬉しく、かつ示唆的と感じました。

 

 

(備考)

子どものアドボカシーについては、過去の拙ブログでも取り上げています。

kizunamail.hatenablog.com