きずなメール・プロジェクト 代表のblog

顔と名前を出す人生です。

子ども虐待「予防」における「第三の支援」について

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あるときスタッフの中から「きずなメールを読んでもらうことは、子どもの権利擁護につながりますね」という一言がありました。子ども虐待は、子どもへの権利侵害です。子どもへの権利侵害を防ぐ、子どもへの暴力を未然防止する目的で、養育者とその家族全員につながり続けて市町村の支援につなげていくなら、それは「子ども家庭福祉」のアプローチではないでしょうか。

 

スタッフのこの言葉を受けて、国内で実施されている子ども虐待の取組みの中で、きずなメールがどのような役割を果たすかの仮説を整理してみました。ここでは、子ども虐待における支援の形を3つに分けています。

 


第一の支援

「第一の支援」は「行政」による支援です。子ども虐待の「防止」の施策と、起こってしまった場合の対応が主です。


【「子育て」のフィールド】
日本において「子育て」の分野とは、0歳から就学前までのイメージ。僕は便宜上、下記の3分野に分割して捉えています。

 

・【福祉】厚労省 保育園 
・【教育】文科省 幼稚園 
・【医療】(厚労省)   

 

【「児童福祉」分野】
「児童福祉」の分野で、厚労省が関わるものは、下記の3つのイメージです。

 

A:保育所
B:児童相談所
C:児童養護施設

 

これらは戦後、社会インフラとして機能してきたものです。日本の「福祉」は基本「標準から外れたものを補う」という前提で設計されています。日本の子育て施策は「専業主婦が家庭で子どもを育てる」ことが前提に設計されているので、かつては「家庭で子どもを保育できない人」が「保育に欠ける者」として「児童福祉施設」である「保育所」の対象者になっていました。「保育に欠けてない家庭の子」は教育分野である「幼稚園」に行くことを前提としていました。


【「子育て支援」】
今僕らが「子育て支援」と呼んでいる政策は、「1.57ショック」に端を発する1990年以降の少子化対策が源流です。内閣府が主導しています。

 

内閣府は、縦割りによる機能不全を解消するためにつくられました。少子化対策ための子育て支援の取り組みは、「子ども・子育て新制度」の13事業として、厚労省文科省にまたがる形で展開されています。

 

①利用者支援
②地域子育て支援拠点事業
③妊婦健康診査
④乳児家庭全戸訪問事業
⑤養育支援訪問事業
⑥子育て短期支援事業
⑦ファミリー・サポート・センター事業
⑧一時預かり事業
⑨延長保育事業
⑩病児・病後児保育事業
⑪放課後児童クラブ
⑫実費徴収に係る補足給付を行う事業
⑬多様な主体が本制度に参入することを促進するための事業

 

【子ども虐待防止】
この中で「子ども虐待防止」はどのように位置づけられているかというと、「児童虐待の防止等に関する法律」などの複数の法律で上記ABCの機能を強化するとともに、13事業が予防的かつ部分的に補完しているイメージです。

 


第二の支援

「第二の支援」は、民間での支援です。子ども虐待の予防的な部分を担うと考えています。

 

かつても今も、地域活動や非営利活動が「公」の活動を補っています。子育て分野で代表的なのは、地域の「子育てサークル」。趣味でつながるグループから「虐待予防」を掲げるものまで内容、規模ともに幅広く、活動内容がしっかりした団体には行政の後押しもあります。子育て世代当事者が活動を担っているので、問題発見の場としても機能しています。

 

成り立ちがボランタリーなので、属人的で継続が難しいなど常に課題と背中合わせですが、地域のつながりを作り出して予防に大きく貢献しています。

 

第三の支援

「第三の支援」は、行政と民間の中間に位置する「事業型NPO」「ソーシャルビジネス」と呼ばれる分野の法人が主な担い手です。「第二の支援」で生まれた子ども虐待防止、予防的アプローチを発展させて組織的にかつ継続的に行います。

 

要件は以下の3点と考えます。

 

①「新しい課題」に取り組んでいる。
②事業としての継続性を担保している。
③協働(多職種連携/参加と協力)の場となっている。

 

それぞれを見ていきましょう。

 

①「新しい課題」に取り組んでいる。
「新しい課題」とは「多くの人がなんとかく感じているいるけど、言語化できない、可視化できない」という特徴があります。過去の言葉や概念で表せないから「新しい」と言わざるを得ないような課題の事です。


一例を上げると「相談」があります。スマホの登場でコミュニケーションが激変している今、悩みを感じたら、誰かに「相談」するより、検索したりつぶやいたりすることが一般化しています。「悩みがあれば相談する」「辛い時に助けを求める」というわかりやすい図式を前提とした制度設計では対応しきれなくなってきています。

 

この状況は「第一の支援」「第二の支援」の分野でも、「相談に来てくれる人はまだマシ。問題は来てくれない人」「SOSをうまく発信できない人が増えている」といった声として現れています。新しい課題は、「課題は確かに存在するけど、どう定義してよいかわからない」という”ねじれた状態”で認知されます。

 

また、「第一の支援」を担う行政の文書にも、”ねじれ”が見て取れます。2018年8月厚労省から発表された「子ども虐待による死亡事例の検証結果等について 第14次報告」では、地方公共団体への提言として、子ども虐待予防のため、妊娠期からの切れ目のない支援が重要であり、女性健康支援センター、子育て世代包括支援センターなどの設置を促進するとともに、その機能を発揮するために、

【地域の理解と信頼を得ることが基礎となることから、子育て世代に確実に情報が届くよう、例えば、ホームページやSNSの活用など広報手段・方法を工夫することが重要である。】

 

「活用など」「工夫」という曖昧な言葉遣いに、「インターネットが大きな影響と役割を果たすようだが、どう対応していいかわからない」という苦しさがにじみ出ています。こうした流動的かつ待ったなしの「新しい課題」に取り組むのが「第三の支援」です。

 

②事業としての継続性を担保している。
「第二の支援」は子ども虐待予防で大きな役割を果たしていますが、「継続性」に課題がありました。「第三の支援」は法人が主体となり事業として継続します。これにより社会的な説明責任を果たすとともに、適切な投資で拡大できる可能性も出てきます。

 

③協働(多職種連携/参加と協力)

「第二の支援」のよいところは、地域の当事者やその周辺の人々の主体的な社会参加の機会になっている点です。「第三の支援」も同様に、「虐待を無くしたい」という人から「子どもの未来のためになにかしたい」という人、ボランティアから専門家まで、バックグラウンドが異なる多数の人々の「参加と協力」の機会を提供しながら、事業として継続します。

 

それぞれの関係性のイメージ

「第二の支援」から「第三の支援」が生まれて、いずれは「第一の支援」に制度格納されていく、場合によっては法制化されていく、という関係性のイメージです。冒頭の図を再掲します。きずなメール事業は「第三の支援」です。

 

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実例

子育て支援分野でいうと、認定NPO法人フローレンスが、病児保育がまだ社会課題としての認知度が低かった頃に「保険型」を提示して認知度アップの起爆剤にしたのは、まさに「第三の支援」の代表例といえそうです。

 

「原稿」を手がかりとして、行政と市民の「情報提供」「情報発信」「広聴」のニーズを満たしながら、「つながり続ける」ことで乳幼児虐待の予防を目指す「きずなメール事業」も、このコンテクストの流れを汲むものです。現在30の自治体の事業となっていること、「原稿」が協働のプラットフォームとして医師などの多数の専門家による多職種連携の場になっている点でも、要件を満たしています。

 

「きずなメール事業」は「子ども家庭福祉」への新しいアプローチ

冒頭にもある通り、僕は「きずなメール事業」は「子ども家庭福祉」への新しいアプローチと位置づけています。

 

論文【「子ども家庭福祉」概念の検討】によると、「子ども家庭福祉」は比較的新しい概念です。

 

要約すると、この論文では「子ども家庭福祉」という言葉の来歴を、以下のように整理しています。

 

「児童保護」→戦後の戦災孤児の保護   
「児童福祉」→被虐待児など、一部の児童に対する福祉
「児童家庭福祉」→虐待などを予防するための、児童を含むすべての家庭への福祉
「子ども家庭福祉」→「児童家庭福祉」に「子どもの権利条約」の思想も組み込まれた福祉

 

「きずなメール」はそもそもが、「子どもの未来がよいものであってほしい」という想いから始まった事業です。だから母親だけでなく、父親も祖父母も、子どもの周りの人は全員講読を推奨しています。繰り返しになりますが、子どもへの権利侵害を防ぐ、暴力を未然防止するために「家庭全員の講読を推奨」するなら、「子ども家庭福祉」の考え方そのものではないでしょうか。

 

時代がどんどん変化する中、専門家による対人の支援は必須としても、単に「テクノロジー」という以外の新しい支援の形が出てきても不思議ではないはず。それが「原稿」「コンテンツ」である可能性は十分にあります。